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札幌高等裁判所 昭和58年(ネ)30号 判決 1983年9月27日

控訴人

山田製菓株式会社

右代表者

荒谷一衞

右訴訟代理人

水原清之

田中燈一

被控訴人

山田庄吉

右訴訟代理人

村部芳太郎

主文

原判決主文第一項(反訴)中金一、一七〇万七三九二円に対する昭和五四年一二月一九日から同五六年七月二九日まで年五分の割合による金員の支払を命じた部分を取り消し、右部分の被控訴人の反訴請求を棄却する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、本訴、反訴を通じ、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、反訴の付帯請求である遅延損害金の起算日の点を除き、原判決理由第一ないし第三項の部分(原判決五枚目表二行目から同六枚目裏一三行目までの部分)に説示されているところと同一(但し、原判決五枚目表五行目の「反訴抗弁主張の事実」を「本訴再抗弁兼反訴抗弁の主張事実」と、同五枚目裏一〇行目の「第二三号事件」を「第二三号破産申立事件」と、同六枚目裏五、六行目の「成立に争いのない」を「前記」とそれぞれ改める。)であるのでこれを引用する。

二そこで反訴の付帯請求である遅延損害金の起算日の点を考えるに、被控訴人が、債権者として、昭和五四年一一月三〇日控訴人を債務者とする破産申立(札幌地方裁判所昭和五四年(フ)第二三号)をしたことは当事者間に争いがないところ、いわゆる付遅滞の要件としての催告は、債権者が債務者に対し、当該債務の即時履行を欲する意思を通知することを要すると解されるが、破産宣告の申立には、かかる催告としての効力がないと解するのが相当である。

債権者のする破産宣告の申立は、当該基本たる(金銭)債権を有することを主張して裁判所に対してするものであるから、裁判上の手続における権利行使の効果として時効中断事由としての効力が認められるべきである(いわゆる裁判上の請求または裁判上の催告)(最判昭三五、一二、二七民集一四巻一四号三二五三頁、最判昭和四五、九、一民集二四巻一〇号一三八九頁)が、破産宣告の申立は、債権者による裁判上の手続による権利行使の一態様ではあるけれども当該(金銭)債権の存在を主張立証してすれば足り、その給付を求めてなすべきものではなく、しかも、期限付や条付件の債権を基本債権とすることもでき、債務者に対する履行を求める旨の意思の通知を含まないものだから、特段の事情のないかぎり(本件においてはかかる特段の事情の存することは証拠上認められない。)前記催告としての効力を認めることは困難である。

そして、この理は、債務者が当該破産手続において審尋などに際したまたま債権者による当該(金銭)債権の権利主張を知り、これに反論をしたからといつて、異なることはない。

したがつて、右破産申立をもつて右催告をした旨の被控訴人の主張は理由がなく、またほかに被控訴人が、反訴状送達前に、本件貸金につき、控訴人に対して右催告をなしたことを認めるに足る的確な証拠はない(乙第五号証中には、弁済請求をしたかのような被控訴人の供述記載があるけれども、明確を欠き、心証を得るまでには至らない。)。そうすると本件貸金の遅延損害金は、記録上明らかな反訴状送達の翌日である昭和五六年七月二八日から発生することになるから、この日がその起算日になるというべきである。

三よつて本件貸金につき、その債務不存在確認を求める控訴人の本訴請求(これは元本につき債務不存在確認を求めるものと解される。)は、すべて理由がなく、またその支払を求める被控訴人の反訴請求は、元本金一一七〇万七三九二円及びこれに対する前記起算日の昭和五六年七月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないというべきであるところ、反訴請求に関する原判決主文第一項中、元本金一、一七〇万七、三九二円に対する昭和五四年一二月一九日から同五六年七月二七日までの遅延損害金の支払を命じた部分は失当であるから、これを取り消して右部分の反訴請求を棄却することとし、原判決のその余の部分(本訴及び反訴とも)に対する控訴は理由がないからこれを棄却することととし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条但書、九六条を適用して主文のとおり判決する。

(奈良次郎 藤井一男 中路義彦)

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